「いいものをより安く」のツケ

買い物弱者:全国600万人 路線バス廃止、相次ぐ閉店で

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100513k0000m040081000c.html
 高齢者を中心に食料品などの日常の買い物が困難な「買い物弱者」が全国で約600万人に上るとの推計を経済産業省がまとめた。外出が不自由な高齢者が増えていることに加え、商店街の相次ぐ閉店による「シャッター通り化」や、バスなど公共交通機関の廃止が買い物から足を遠ざけている。経産省の研究会は14日、「深刻な地域問題」と指摘して、支援例も盛り込んだ報告書を公表するが、高齢化が急ピッチで進む中、政府や自治体も本格的な対策を迫られそうだ。

「1円でも安いもの」「たくさんの品揃え」を消費者が求めつづける限り、スーパーはより大型化、商圏は広域化せざるを得ない。
そのとき、出店コストを下げるためには、何より安い土地がまとまって手に入る郊外に出店するのは当然の結果だろう。

スーパーで売っている商品はなぜ安いのか。
それは私が言うまでもなく「店からお客様宅までの商品運搬コストをお客様が負担してくれるから」に他ならない。
ゆえに、商圏を大きく取るスタイルの方が商品の価格を安く出来る。
商圏を大きく取るということは、対象となるお客さんの数が増えるので大量販売が可能となることからさらに値下げが可能となる。
これが消費者のニーズとマッチするからますます郊外化、大型化、ということになるのは必然でもあり、「買い物強者」たる現役世代はこのことに対してたいして不満を持っていない。
スーパーだって慈善事業じゃない。営利目的の企業だ。客単価が高いであろう、現役世代をメインターゲットにしたほうが利益が大きいだろう。至極当然の話である。

解決方法は2つ。しかし、どっちにしても「金銭的負担を増やす」ことでしか解決できない。

ひとつは、ひたすら転々とスーパーが出店する先々に引越ししていく方法だ。
農家ではない人がほとんどなのだから、土地に縛られることはやめよう。いや、むしろ同じところにずっと住み続けるのは不可能なのだと悟ることだ。
お年寄りになってからの引越しは精神的にも肉体的にも負担が大きいと聞く。近所づきあいなど人間関係も疎遠になろう。しかし、ここまで高齢化が進み、限界集落の問題がクローズアップされ、解決の糸口が見つからないまま、日本全体が老人に対する負担増でつぶれかけている現在、荒療治も覚悟をせねばなるまい。

もうひとつは、品質が良くてできるだけ高いものを地元、近所で買うこと。
価格競争になった時点でスーパーの大型化、郊外化は絶対に止まらない。ならば、価格競争から脱出することで「難民化」を防ぐしかない。つまり、価格競争に代わる品質で競争してもらう。高くても地元のお店で買う。これで地元のスーパーに儲けさせなければならない。「いいものをより安く」なんてものはありえない、と自覚すべきなのだ。それを無視した結果、店まるごとなくなってしまった、というのが今回の「買い物難民」の話だろう。しかも、それがたまたま横浜という大都市に出てきたから目立っただけの話であって、田舎ではもう何年も前からそんな状態になっている。ど田舎だと、一家総出で朝からスーパーに買い出し、なんていう地域すらある。

「買い物弱者」に対する問題解決方法が「金銭負担の増加」とは、なんて冷たい…

と思うかもしれない。

でも、この感覚は今まで都市部の人が地方に対して「人が少ないんだから割高なのは当たり前」と言ってきたことと本質的にはなにも変わらないのである。

だから、こういう結果が出る。

東北も首都圏も最低限必要な生活費に差なし

http://mytown.asahi.com/akita/news.php?k_id=05000001004010001
 試算結果によると、最低生計費を賃金収入で得るとすると、東京と埼玉では1カ月23万3801円、 福島は23万2600円、岩手は22万7855円が必要だという。必要最低時給の差を東京と比較すると、福島が7円、岩手が34円低い。福島が147円、岩手が160円、東京を下回っている現行の最低賃金とは大きな差が出た。
 調査では、東北と首都圏の最低生計費に大きな差が出なかった理由として、東北と首都圏の生活費の内訳の違いを説明。住居費は首都圏が月額約2万円高い一方、通勤費では電車を使う首都圏に比べ、車が必要な東北が月額で約2万高くなる。他にも被服費は首都圏、光熱費や水道料は東北がそれぞれ高いため、相殺され、ほぼ同じ生活水準となるという。

人口密度の高い首都圏の住居費が高いのは当然だろう。しかし、それは逆に言えば生活に必要なサービスまでのリーチが短いことを意味する。通勤さえなんとかなれば、という前提はあるが、生活圏を小さくすることが出来る。
東北は逆。人口密度が低いから住居費が安いのは当然だが、生活に必要なサービスまでのリーチが長い。早い話、生活圏が広いのだ。故に車が必須となる。
結果、コストは一緒。そんな東北のような人口密度の低いところで「1円でも安く」買い物をすることは、自らお店を遠ざけている行為そのものなのだ。