雇用特区で生まれる「修羅の国」

雇用特区ブラック企業が生きていけないわけ

http://jyoshige.livedoor.biz/archives/6824578.html
「そうそうたるブラック企業ばかりが集まるブラック特区になるのではないか」

なると思います。

仮に「従業員を過労死寸前まで、それも手当無しでサービス残業させてやろう」
と考えている経営者がいたとする。

こうはならない。
このニュース記事の最大の間違いは、ブラック企業は「従業員を過労死寸前まで、それも手当無しでサービス残業させてやろう」なんて考えていないというところだ。
ブラック企業は「従業員を過労死寸前まで、徹底的に低コストでこき使ってやろう」と考えているのだ。
コストとは給料だけではない。残業代はもちろん、福利厚生や各種保険料なども負担したくない、と考えているのだ。

彼は特区に新しく会社を作り、雇い入れた従業員に
毎晩遅くまで働かそうとするだろうが、従業員のほとんどは一週間持たずに逃げ出す
だろう。なぜなら、特区流動性が高いから。

こうはならないだろう。
特区にあるホワイト企業から従業員が逃げ出すことはないから、必然的に空いている雇用の椅子はブラック企業のみになる。しかも、流動性は高いから一度ブラック企業に就職したが最後、延々とブラック企業を渡り歩くことになる。どこに就職しても満足な職場に出会わないまま従業員はスキルアップすること無く老いていくことになる。
これはブラック企業からすれば願ったりかなったりである。
ブラック企業の本質は如何に低コストで人をこき使うか、という点に尽きる。
転職にかかる様々な費用も従業員持ちだ。1日にも隙間があくことのない転職、引っ越しを伴わない転職がどれほどあるだろうか。
一度ブラック企業に就職してしまうと、満足な賃金が得られないのだから、転職にかかる様々な費用を捻出することすら困難になってくるだろう。それどころか、毎日続く残業や休日出勤で転職活動すらままならない日々が続くのだ。そうすれば特区から逃げ出すことすらできなくなるだろう。そして、ますます「1日も早く再就職したい」「できれば引っ越しをしないで済む範囲で再就職したい」という事になり、これまたブラック企業にとって好ましい現象になる。
つまり、ブラック企業は単体で存在していても迷惑な存在なのだが、集団になると更に厄介になる。賃金や福利厚生などの待遇改善や、職場環境の改善などは企業間で競争原理が働くことで良くなっていくものなのに、それを放棄することを是とするブラック企業ばかりが集まるわけだから、ブラック企業特区は従業員に対する待遇改善競争をしないカルテルを結んで良い特区、ということになる。

「徹夜でもなんでもして朝までにこれだけやっとけよ!」
「……じゃ辞めます」
「えっ」

ブラック企業は「えっ」なんていわない。
ブラック企業の本質は如何に低コストで人をこき使うか、という点に尽きる。
つまり、賃金を安く抑えたまま企業活動を回すことが目的なのだから、「……じゃ辞めます」「どうぞどうぞ」ってなるのは目に見えている。従業員の補充に苦労することはない。なぜなら、就職希望者はいくらでもいるからだ。

会社が本気で従業員を過労死寸前まで働かせたいのなら、相当高い年俸を用意
しないといけない。逆に安月給にしたいなら、とっても楽ちんな作業か、実労働時間を
うんと短くするしかない。これは別に珍しいことではない。
売り手と買い手の双方に選択肢のある普通の市場であれば、ごく当たり前の話である。

この常識が通用しないからブラック企業が生き残るのだ。
はっきり言ってしまえば今の日本は「売り手と買い手の双方に選択肢のある普通の市場」ではない。
金を持ってる企業は強者。金を持っていない労働者は弱者。法律がどう定めようと、これが厳然とした事実である。
弱者たる労働者に選択肢は与えられていないし、ブラック企業は従業員の選択肢をただひたすら削り取る。ブラック企業は従業員の手持ちのお金が干上がってなくなるまでただ待っていればそれでいい。これだけで従業員の選択肢はなくなる。これを特区内のすべての企業が同時にやるわけだから、従業員側に選択肢はないのだ。

「おいお前!クビにしてやるぞ!」
「ああ、そうですか。じゃあ規定通り半年分の基本給を退職金に上乗せして払ってね♪」
「えっ」

ブラック企業は「えっ」なんて言わない。
ブラック企業の本質は如何に低コストで人をこき使うか、という点に尽きるのだから、「会社に迷惑をかけた」とか「退職したことで会社に損害が出た」とかなんとか言いがかりをつけて退職金を出さないはずだ。
下手すると訴訟にまで発展するはずだ。ブラック企業は金の力で押し切ってしまえばいい。従業員に弁護士を立てて争うほどの時間的金銭的ゆとりがあるだろうか。ブラック企業はそうなることがわかっているから、予めその選択肢を削りとっておくのだ。

やがてブラック経営者たちは、特区ではブラックの成り立つ余地が極めて少ないという
事実に気付くはずだ。ブラックとは、“正社員”という曖昧な身分制度に咲くあだ花であり、
契約というガラス張りのようなカルチャーとはきわめて相性が悪いためだ。

ブラック企業特区の居心地の良さに気がつくはずだ。あふれんばかりの求職者がひしめく中で次から次へと従業員を使い捨てできる心地よさを感じ、気がつくはずだ。正社員という身分は経営者のオレ1人だけでいい、と。
ガラス張りの労働契約なんて存在しない。今までどおり曖昧で包括的な契約にしておけばいいし、それを拒否したら雇わなければいいだけなのだから。

そうこうしているうちに、まっとうな商売をしているホワイト企業は、不当に削った人件費の分だけ利益が上がったブラック企業に淘汰されるだろう。
参入障壁がほとんどない、飲食や流通小売業などにブラック企業が多いと言われているのはこのためだ。特区をやるまでもなく、参入障壁の低い、差別化が難しい業界がすでに特区状態になっていると言って良いだろう。

タクシー:減車義務化 運転手労働条件改善へ自公民が法案

http://mainichi.jp/select/news/20130818k0000e010142000c.html
自民、公明、民主3党は、国がタクシーの台数制限を事実上義務づける「タクシーサービス向上法案」で合意した。規制緩和による競争激化で悪化した運転手の労働条件の改善が目的。これまでの事業者による自主的な供給削減(減車や営業時間の制限)では不十分と判断した。秋の臨時国会での成立を目指す。「小泉構造改革」の象徴の一つだったタクシーの規制緩和を抜本的に見直す。

まさにこれがブラック化の最たるものではないだろうか。
参入障壁の低い、差別化が難しい業界を野放しにすれば、強いものだけが生き残る「修羅の国」と同じだ。
特区は「修羅の国」を意図的に作ろうとしているということなのだ。