労働時間無制限一本勝負の成果主義はデスマッチと同じ

「成果給<ダラダラ働く人の残業代」の現実

http://toyokeizai.net/articles/-/45698

給料が上がるいちばんの近道は“成果”を上げること。成果を上げれば、高い『人事評価』を獲得することができるので、翌年の昇給が大きい可能性が大。

これは長期的に見れば嘘。
1年という短期的なスパンで見れば「翌年は昇給」するだろう。しかし、毎年昇給するとは言ってない。毎年成果を上げ続けなければ毎年昇給しない。

ちなみに会社の人事評価とは

S:期待を大幅に超える成果
A:期待を超える成果
B:標準的な成果
C:期待を下回る成果 
D:期待を大幅に下回る成果

などと5段階にわけ、上位のSないしAの評価がついた社員は給料が大きく上がる仕組みになっている会社が多いようです。

これもかなり甘いと言わざるをえない。
現実は、上位のSなら昇給、Aなら現状維持、BCはダウン、Dは2回続いたらリストラ対象、という感じだろう。
なぜなら、

表の意図:頑張った人を報いる
裏の意図:総人件費の抑制

兎にも角にも総人件費を抑制しなければならない。経営側にとっての成果とは「人件費をいかに抑制したか」というところが評価ポイントになるからである。総人件費が減るというのは「市場のパイが小さくなる」のと同じであり、負ける人のほうが多いマイナスサムゲームということである。
極端な言い方をすれば、競馬やパチンコで収入を増やし続けろと言ってるのと同じことだ。勝ち負けが50:50ではない競馬やパチンコは長期的には必ず負けることになっている。

「B評価は全体の30%まで。S評価とD評価を全体で5%以上にすること」

こういう評価を続けると、従業員はどういう行動を取るか考えてみる。
ここで挙げられている評価制度はかなり楽観的な評価制度とは思うが、S評価とD評価を5%、B評価を30%の従業員に割り振ることを条件とした場合、総人件費を下げるという成果も挙げなければならないので、必然的にA評価よりC評価になる従業員を多くしなければならない。
負けがこんでくる従業員の方が多いので給料は下がっていき、辞めていく従業員も出てくるだろうし、D評価にされて首になる従業員も出てくるだろう。
すると、今まではB評価で凌いできた人たちがCやDの評価を受けるようになりまた辞めていくことになる。
辞めていった従業員の分は新卒や中途採用で補ったり、派遣などを使っていくことになるだろう。しかし、このシステムを何年も続けていくと精鋭だけが残るようになるので、新卒や中途で入った人はなかなか高評価を得にくくなるだろう。
残された精鋭たちというのは、理念集に「24時間365日死ぬまで働け」と載せることに何の疑問も感じなかったり、「自分も月500時間働いてきた」と何の疑いもなく自慢してしまうような人たちのことだ。こういった精鋭たちの下で働いていた人たちがどうなったかは言うまでもないだろう。
逆に、こんな勝ち残り戦を強いられるような会社には居たくない、と優秀な従業員が自主的にどんどん辞めていく可能性もある。そうなった場合、残されたボンクラ従業員ですらS評価をつけることになりかねない。
結果として、総人件費のパイを小さくした分だけ、人材のパイも小さくなる。経営側だけおいしいところを持っていけるわけではないのだ。

景気が回復して全体的に残業時間が増えてくると、会社は一般社員に対して残業を容認するようになり

「残業して稼ぐのがいちばん近道。だから残業は積極的に」

という社員が出てきたりします。そんなタイミングに成果を出しており、残業が少ない社員をどのように評価するか? 会社にとっては大きな問題ではないでしょうか。

従業員が「稼ぎが減ったから残業代で穴埋めしよう」と考えるのと「残業は人件費増大の元」と考える経営側は基本的に同レベルと考えていいだろう。
制限時間無制限一本勝負で勝つまで働け、負けた方は死あるのみ、という発想を捨てない限り、成果主義と残業代の矛盾は解決しない。もう一つ言えば、成果というものを「短時間で成果を出しました」という相対的な時間軸で評価している限り、残業代を減らすことはできないということだ。
「予定の時間内に成果を出しました」でよしとする絶対的な時間軸で評価をしないと、どうせいつかは負ける日が来る、だったら勝ちはなくても負けないようにしよう、と思ってしまうだろう。
営業のノルマ主義はまさにこの典型例だ。ノルマは下方硬直性が強いのでいつかは負ける日が来る。勝ち負けの評価が50:50ではないので、従業員は勝つことより負けないことを優先してしまうのは当然の結果である。

・残業している姿を称えない風土を醸成する
・社員別残業時間を管理職同士で共有する
・残業時間と業績を連動した人事評価を行う

こんな面倒くさい、成果が上がるかどうかわからない努力をしてどうするのか。
答えは一つ。
制限時間無制限一本勝負をやめて、制限時間を設けること。時間切れで成果が出なかった場合は、計画が甘かった経営側の責任ということにすればいいのだ。
1日8時間、1週40時間という制限時間の中で成果主義を取り入れれば、残業の心配がないから人件費が予想以上に膨れることもないし、制限時間内で大きな成果を出した人から順番に高い評価をすればいい。
ワークライフバランスやら子育てやら少子化やら介護やら、これからますます現役世代は仕事以外の時間が必要になる。そういった社会情勢を踏まえて働く環境を作っていかないと、成果主義という競争環境の維持すら困難になるだろう。